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事実誰にも信じてもらえないという訳ではないが、おそらくそうだろうと思って誰にも話したことのない体験だ。
実は9歳まで四国の山深い田舎で育った。自分の生まれ育った家は山の傾斜地を削って出来た少しばかりの平面を石垣で支えている敷地に建っていた。幼児の頃その石垣に沿って干していた布団の上で寝ていて、しばしば転がり落ちたものだった。
下の畑地にはトウモロコシや高粱が植えてあり、その収穫後は斜めに鋭く切った切っ先がまっすぐ上を向いていた。また石垣には木イチゴがなっていたものだった。
その家から一本の坂道をしばらく登ると、黒沢という池があり、そこでよく泥鰌を釣ったものだ。
さて、そこから別の集落に行くために左に折れる細道を行かなければならないのだが、その道の入口には地蔵があり、地蔵の横の斜面に、姿を見た者は誰もいないのだが不思議な生き物がいた。
その生き物は坂の上から下に転げ落ちる音がするだけで、確認しようと近くで耳をすませるとピタッと動きが(音が)止まるのであった。いくら目を凝らして藪の中を見詰めても何も見出すことは出来なかった。
今思うと、あれは不思議でちょっと不気味だ。