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私が生まれ育ったところは、選挙の時ぐらいしか自動車が通らないような田舎だった。
子供の頃、通っている小学校が本当に目の前にあった。おそらく直線距離で数百メートルも離れていなかったと思う。ひょっとするとせいぜい百メートル位だったと思う。
なにしろ大声で呼びかければ聞こえたのだから。
ところが、この学校に通うのに往復半日はたっぷりかかった。少なくとも片道1時間はかかったはずだ。
なにしろ、近道をするには一旦急斜面の一本道を谷底まで降りて、水車小屋の近くから同じ距離を反対方向によじ登らなければならないのだから。
これとは別に田畑を通って平たんな道を行く方法もあったが、時間がかかりすぎた。
この水車小屋の辺りを皆「ごみ谷」と言っていたので、上の方からゴミでも集まってくるのかなと大学生のころまで思っていたが、実は「ごみ谷」ではなく「込谷」だと、大学生になってから尋ねて行って初めて知った。
また、近くに天然記念物の「シラサギ草」や千振りが自生していた「くろぞう」と呼ばれる湿地があったが、これも実は「黒沢」であることが、その時分かった。その黒沢にあった池で良く魚釣りをしていたが、小ぶりの湖位だと思っていたものが、実は大きめの水たまり程度にすぎないことも、その時知った。